【魔法の言葉 】第14話その5
2017.01.17(Tue)
東宮殿。
謹慎を命じられたシンの周りには、翊衛士の数が倍増していた。
過去には家出もしたくらいだ。
皇帝ヒョンは自分の息子を信用できないらしく、窓やドア、とにかく出入り口になりそうな場所に翊衛士を配置させた。
さらに内通者による手引きも考えたのか、コン内官以外の東宮殿勤めの内官や女官はすべて配置換えとなった。
一歩自室を出ようものなら、すぐにあとをついてくる。
もっとも…コン内官とて、朝のわずかな時間しか顔を出すことを許されていなかった。
必要以上の会話をしようものなら、新しく配属になった内官がずいっとしゃしゃり出て来て、すべては報告するよう言われている、と申し出れば、流石のシンも何もできなかった。
それに。
今は動かない方が良いかもしれなかった。
不用意に事を荒立て、さらにヒョンの怒りを買えば、謹慎だけではすまされないかもしれなかったからだ。
「味方がいないっていうのはさすがにきつい…な」
シンは暗室に籠ってひとりごちると深いため息を漏らした。
暗室にいると幾分気分が落ち着く。
狭く暗い空間ではあったが、作業に没頭できることで嫌なことを忘れることができた。
かつて、この壁一面に張られていた笑顔の写真を、自分の手でネガごと処分したことが悔やまれる。
棚に置かれたカメラを手に取って、まだ使いかけのフィルムではあったが、それを現像することにした。
数枚の風景、その中に一枚だけ…。
「…チェギョン…」
風景を撮る。その授業の一環でたまたま教室から外へ出て写真を撮っていた時だった。
グループ行動だったから、周りにはいつもの面々がいたわけだが、校舎南側の雑木林を撮影していた時、偶然にもそこにチェギョンがいたのだ。
向こうも実習中だったらしく、スケッチブックを開いて鉛筆を動かしていた。
時折吹く風に髪の毛をいじられ、鬱陶しそうにそれをかき上げながらも、感じる風の心地良さに目を細めた瞬間を、たった一枚だけ…カメラに収めることができた…。
現像液の中で揺れる印画紙に次第に浮かび上がってきた笑顔。
慎重に取り出して吊るす。
今、シンにとってこの一枚だけがチェギョンを感じられるものになった。
しばらくそれを眺め、そして使用した薬品や器具類を片付け、またしばらく写真を眺めた。
何もすることがないのだ。
チェギョンの笑顔を眺めているだけで、これまでの事が色々思い出されてきた。
なつかしさに想いを馳せ、思わずニヤリとしてしまい、慌てて平静さを装う。
そんな自分の行動が滑稽に思えてため息を漏らした時だった。
何か騒がしい。
暗室のドアを開け外に出ると、騒がしさは一層大きく聞こえる。
パビリオンのあたりで誰かが大声を上げていた。
それが誰なのか、シンにはすぐにわかった。
暗室のドアをロックし、皇太子の仮面をかぶる。
いつもの無表情な自分になったことを確認し、騒ぎの元へ向かった。
▲よろしかったらポチッと…
謹慎を命じられたシンの周りには、翊衛士の数が倍増していた。
過去には家出もしたくらいだ。
皇帝ヒョンは自分の息子を信用できないらしく、窓やドア、とにかく出入り口になりそうな場所に翊衛士を配置させた。
さらに内通者による手引きも考えたのか、コン内官以外の東宮殿勤めの内官や女官はすべて配置換えとなった。
一歩自室を出ようものなら、すぐにあとをついてくる。
もっとも…コン内官とて、朝のわずかな時間しか顔を出すことを許されていなかった。
必要以上の会話をしようものなら、新しく配属になった内官がずいっとしゃしゃり出て来て、すべては報告するよう言われている、と申し出れば、流石のシンも何もできなかった。
それに。
今は動かない方が良いかもしれなかった。
不用意に事を荒立て、さらにヒョンの怒りを買えば、謹慎だけではすまされないかもしれなかったからだ。
「味方がいないっていうのはさすがにきつい…な」
シンは暗室に籠ってひとりごちると深いため息を漏らした。
暗室にいると幾分気分が落ち着く。
狭く暗い空間ではあったが、作業に没頭できることで嫌なことを忘れることができた。
かつて、この壁一面に張られていた笑顔の写真を、自分の手でネガごと処分したことが悔やまれる。
棚に置かれたカメラを手に取って、まだ使いかけのフィルムではあったが、それを現像することにした。
数枚の風景、その中に一枚だけ…。
「…チェギョン…」
風景を撮る。その授業の一環でたまたま教室から外へ出て写真を撮っていた時だった。
グループ行動だったから、周りにはいつもの面々がいたわけだが、校舎南側の雑木林を撮影していた時、偶然にもそこにチェギョンがいたのだ。
向こうも実習中だったらしく、スケッチブックを開いて鉛筆を動かしていた。
時折吹く風に髪の毛をいじられ、鬱陶しそうにそれをかき上げながらも、感じる風の心地良さに目を細めた瞬間を、たった一枚だけ…カメラに収めることができた…。
現像液の中で揺れる印画紙に次第に浮かび上がってきた笑顔。
慎重に取り出して吊るす。
今、シンにとってこの一枚だけがチェギョンを感じられるものになった。
しばらくそれを眺め、そして使用した薬品や器具類を片付け、またしばらく写真を眺めた。
何もすることがないのだ。
チェギョンの笑顔を眺めているだけで、これまでの事が色々思い出されてきた。
なつかしさに想いを馳せ、思わずニヤリとしてしまい、慌てて平静さを装う。
そんな自分の行動が滑稽に思えてため息を漏らした時だった。
何か騒がしい。
暗室のドアを開け外に出ると、騒がしさは一層大きく聞こえる。
パビリオンのあたりで誰かが大声を上げていた。
それが誰なのか、シンにはすぐにわかった。
暗室のドアをロックし、皇太子の仮面をかぶる。
いつもの無表情な自分になったことを確認し、騒ぎの元へ向かった。
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